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頑張り屋さん<記念日SS>

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 平穏な時間が流れる。二人で夕餉を共にして、一日の疲れがじわりと身体に染みてゆく頃合い。
毎度の妖怪退治も、半妖の少年にしてみれば、朝飯前の如き日課になりつつあるのだが、その日
はなぜか眠気が勝ったのか、かごめとの会話もそこそこに、犬夜叉は床につき、暫し休んでいた。
 まどろみから覚め、天を仰げば、真っ暗な空間の中にひとつ、灯火の残る場所が微かに見えた。
(まだ、起きてるのか)
 夜更けも間近。外の物寂しい北風が、初秋の気配を連れて来ては、夫婦たちを覗いているようだ。 
かごめは旦那の熱い視線を気にも留めず、自作の書物を手に、ひたすら学習に没頭していた。
(ったく…いつもは俺に”早く寝て”だの、”一緒に寝よう”だの散々言うくせによ、最近になって、
全っ然つれねぇじゃねーか…そんなに巫女の仕事が大変なのか?)
 独り拗ねてみたものの、こんな愚痴を面と向かって本人に言えるほど、犬夜叉も無神経ではない。
かごめの努力を分かっていればこそ、些細な件を気安く言えないのだ。
「…かごめ」
 顔を近づけると、かごめの髪の匂いがふわりと香る。市で人気の櫛で丁寧に梳いただけあって、
艶が違う。知らぬ間に、人間の小娘は大人の色気を帯び始め、朴念仁の犬夜叉を惚けさせた。
(え……壁にもたれて寝てやがるか……疲れてたんだな、よっぽど)
 そっと、物音一つさせずに立ち、暗がりの部屋に置いた蝋燭を頼りに、手元の文書を照らし出す。
 半紙に書かれた丸文字を眺め、犬夜叉は首を傾げていたが、やがて、その意味を理解した。
村に自生する、数多の薬草の名や、衣食住にまつわる、生活の知恵など。かごめが毎日怠らず
書き連ねていたのは、どれも、巫女の楓から教わった知識だった。
(…かごめのやつ…俺に黙って、何の作業してんのかと思えば──)
 四魂のかけら集めから始まった、仲間との旅でさえ、終盤は”てすと”に追われて、心穏やかで
はなかったろう。それでも、かごめの持ち前の優しさと気遣いに加え、土壇場での根性には、感心
しきりだった。
『犬夜叉、私頑張るから。あんたと一緒にいたくて、現代から戦国(こっち)に来たけれど…
それだけじゃだめなんだって分かってる。ここで生きるってことは、私も巫女にいつか
なるってことだから』
『かごめ。俺は──おまえが親兄弟を置いて、ここに来てくれただけで十分だと思ってる。
どんな想い抱えて、村にいてくれてんのかって思うと、何も他に要らねぇって気持ちで一杯
なんだよ』
 あの時、かごめは目を細め、嬉しそうに頷いていた。互いが三年ぶりに再会した、青緑の季節。
 なんの脈絡もない、唐突な告白に聞こえたかもしれないが、犬夜叉にしてみれば、常日頃から
抱いてきた感謝の念でもあったのだ。
(今も、その言葉に嘘偽りはねぇ。かごめは、この俺が命を懸けて守る。ずっと…側にいてくれる
限り。だけど…かごめの気持ちを無駄にはできねぇ。おまえの覚悟に寄り添うと決めたなら、俺も
自分の意志を伝えなきゃいけねぇのかもな)
 こんな風に、犬夜叉の迷いは降り積もるばかりで、立ち切ろうとしても、また同じことを考えている。
我に返って言ったところで、嫁の体調を気遣うことしかできないのだ。所詮は、側で見守るしかなくて。
「風邪ひくぞ。べんきょーもほどほどにしやがれって、何度言やぁ──」
「ん……あと少しぃ〰〰。腫れを抑えるにはドクダミでしょー、お腹にいいのはヨモギでー…」
 呼応したはいいが、かごめの唱える言葉も曖昧で、どうやら夢心地のまま、漂っているらしい。
(…おいおい、寝言まで仕事の内容かよ)
 わずかな瞬間でも、恋敵に大切な嫁を取られたようで、やるせない寂しさが込み上げてしまう。
夫婦として、ひとつ屋根の下で過ごせる時間だけは、思う存分に彼女を独り占めしたかったから。
きっと、手を伸ばせば、すぐに届く距離。あの頃に切望していた幸せの形が、今こうして隣にある。
 物思いは尽きない。呆れながらも、かごめの満ち足りた寝顔を前に、こちらも心癒されてゆく。
できればこのまま見続けていたい衝動に駆られ、犬夜叉は内心慌てて、それを否定した。
 遠くで鈴虫が鳴き、宵の調べが奏でられる。火鼠の衣を愛妻の背へ掛けながら、想いが込み上げた。
「あ…ありがとな…」
 生まれ育った故郷を離れて、こっちの生活に馴染もうと、かごめは日々奮闘している最中。
大なり小なり、人生には辛いことが待ち構えているものだ。そんな中、戦国の片田舎の村へ
飛び込み、逞しく順応していく過程を見せる度、かごめに無理をさせているのではと、不安が
募ることも増えてきた。無論、それがつまらぬ杞憂であることも、どこか承知しているのだけれど。

 女の指とはかように細くて、美しい形をしているのか。かごめの右手を眺め、堪らずに息を吐く。
水仕事で肌が荒れたのか、中指には白布が巻かれている。それも全部、巫女の仕事をこなしている
がゆえのこと。 
 以前、かごめと出会った直後に”なんかおめー、肌メチャクチャ弱ぇからな”などと口走った記憶
が過ぎった。今から思えば当然失礼な物言いだったろうし、かごめも確かいい顔はしなかった。
 つい、意地悪をしてしまうのも、相手が雄の本能をくすぐって来るからだ。無意識にも、程がある。
今夜は一緒に座って寝ようか。振り向いて、かごめの片手を寄せると、犬夜叉は優しく口づけした。

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