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「読切」
星降る空

星降る空

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 この頃は寝ても覚めても、かごめのことで頭が一杯だ。
“おまえは今どこにいる?”と、返ってくるはずのない言葉を独り投げかけては、骨喰いの井戸の
底を見つめる日々。
 場を和ます笑顔と共に、辛い時も一緒に歩んでくれた小娘の存在に、自分はどれだけ救われ、
心癒されてきたことか。
 “かごめ、おまえにはまだ伝えたいことがたくさんある。だから戻って来い。心配すんな。
周りが歳を重ねて、次第におまえのいねぇ日常に慣れていったとしても、俺はいつだって変わら
ず、かごめを待ち続ける”と、密かにそう呟いた犬夜叉の眼に、光る雫が宿っていた。

 季節は巡る。夏草の癖のある臭気は、半妖の鼻には非常に刺激が強くて、好きにはなれない。
眩く照らされた大地は未だ熱を持つ。生暖かい空気が、肌にまとわりつく不快感も運んでいく。
 その日、四魂のかけらの捜索を終えて、かごめは犬夜叉を連れ出し、夜空の下で”話したいこと
があるの”と切り出して、しおらしく腕を絡ませてきたのだ。身構えて聞いたところ、なんてこと
ない冗談だとごまかされたのは、先ほどのこと。特に意味もなく、”星をあんたと見たかった
だけ”との返答をどう受け止めてよいものか。
『…何がそんなめずらしいんだよ、かごめ。さっきから黙って見てるみてぇだが』
『だって綺麗じゃない、空一面に星が瞬いてるのよ。こんな景色、絶対 現代(あっち)では見られないもの』
 確かに、かごめの実家まで迎えに来た際に、犬夜叉が仰いだ空はひとつも星が見当たらず、
こちらと比べると、なんて味気ない国なのだと残念に思ったのは、記憶にも新しいが。
『……』
 こうして、油断しきっている有様ならば、かごめの横顔を盗み見るのも容易だ。隣にいる少女
は暫し感動に浸って動けずにいるのだから、犬夜叉がふざけて肩をつつこうが、何ら無関心だ。
 ただ、物事には限度というものがある。呆れるほど、煌めく星空の虜となり、夢中になる心理
がどうも理解しがたく、せっかく自分も一緒にいるのに、そっちのけで無視することはないので
はと、じれったくも感じてしまう。
 花に月、蝶に星。可憐で風雅なものを見る女とは、どうして男の眼に綺麗に映るのだろう。
『あっ、流れ星!』
  自由自在に天を流れ、刹那に光った箇所を指差し、かごめは蹴鞠が弾むような声を上げた。
 もっとも、あれこれ感想を言う間もなく、すでに星の形は水平線の彼方へと消え去っている。
『ご丁寧に手ぇ合わせて、願い事でもしてたのか?』
『まぁね、あんたには内緒よ。それに…流れ星を信じてないでしょ? 犬夜叉は』
『けっ。そいつに願えば叶うとか言うんだろ? くだらねぇ』
『いいのよ、信じる・信じないはその人の自由だから。一種の願掛けみたいなものだし』
 随分と呑気な言い草に、不愛想な反応をした犬夜叉も拍子抜けしてしまい、口を挟む機会を
失う。
 時折、ぶつぶつと聞き慣れぬ呪文を唱えているかごめのことだから、毎度 頭を悩ます”てすと”
で次は上手くいきますように、などと意気込み、偶然 遭遇した流星に祈っていたのかもしれな
い。彼女の密かな願いが何であれ、犬夜叉は真相を知る由もなく、ただ日々を積み重ねていく
だけ。初めは二人きりの旅路も、いつしか人数が増えていき、その分 共有する思い出も色濃く
なって──自分の周りには信頼の置ける仲間がいて、独りではないということを、つくづく感じ
たものだ。

 流れ星。閃光が消滅する瞬間、願い事をすれば、その願いは叶えられるという──
己が生を受け、孤独な日々さえ過ごしてきた戦国の世で、星たちの煌めきを目撃したことは
何度かあっただろう。けれど──こういった類は迷信だと思い込み、自分が遭遇しても気に
留めることすらなかった。
 些細なやり取りを思い返せば、なつかしい痛みと共に、心通わせた時の喜びの感情が蘇る。
仲間で野営の陣を張った夜や、何処の空いた家屋で寝泊りした夜も、賑やかに語り合って。
 たとえ、深い沈黙に誘う闇の果てにいても、不思議とそこに温かさを感じたというのに──
今はただ一人、溢れるばかりの流星を見上げているのだ。隙間風が虚しくも通り抜けてゆく。
 隣にかごめがいたなら、自分はどんな言葉を掛けてやれただろうか。蕾が花開くように顔を
ほころばせ、見惚れて言う少女に、今度こそ何か気の利いたセリフの一つでも、口にすることが
できたなら──”柄にもない”なんて、笑われようが茶化されようが、犬夜叉は一向に構わなかっ
た。
 それにしても、再び何処かで流星を見ようとは、今宵 散策しに来た自分は幸運というべきか。
夜空を覆い尽くす濃紺と藍の色合いは宝石のようで、宇宙を独り占めしているかの心地に浸る。
風の吹き抜ける丘陵に立てば、その傾斜より村一帯を一望できるので、星を鑑賞するにも最適
だろう。
 荒れ果てた砂漠の心に注ぐ恵みの水を、喉の奥から堪えず欲していても、決して満たされぬ
感情がある。香しきかごめの可憐な匂い、やすらぎと至福をもたらす、誰にも真似できぬ笑顔。
(…何も願えなかった)
 村巫女の楓を筆頭に、村で暮らす人々の何気ない優しさに触れた際、犬夜叉は無言で噛み締め
る素振りを見せていた。犬夜叉が、かごめに恋焦がれるのは、決まって一人で過ごしている時
だけではないのだ。
 時代は違えど、同じ空の下。かごめのことを想いながら、彼女の側にいる者たちの無事と幸せ
さえも自然と心に描いていれば──その間は愛する人と繋がっていられるのでは、と淡く願って。

【後記】▼
作中、三年間の空白。戦国時代と現代──離ればなれになってしまう二人。
夜空を眺める犬夜叉の、なんともいえず寂しそうな表情が、原作・アニメとも印象的で
切なかった。。

あの場面はほんの少ししか描かれてなかったけど、どんなことが彼の心に去来していたのか。
かごめの無事を祈る気持ちもあっただろうし、”会いたい”という想いが募っていたはず…
流れ星との遭遇で、犬夜叉はもしかしたら「かごめに会いたい」と願ったのかもしれない。
けど一方で、願わなかった犬夜叉も想像できるというか… どうなんでしょうね。
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