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お知らせ

赤と緑のキセキ<記念日SS>

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 一年の締め括りともいうべき師走がやって来て、その頃に聴く鈴の音は、何やら童心に返ったような
心地にさせてくれる。もっとも、現代にありふれたジングルベルではなくて、神事で扱う由緒正しい鈴
なのだが、それでも──その研ぎ澄まされた美しい調べに、かごめは思わずため息が漏れてしまう。
 何ゆえか、子供のように心躍るのも気のせいではない。戦国の生活の端々で、現代での名残りを
感じることは度々あって、寂しさも入り混じったこの気持ちを、あまり犬夜叉には悟られたくなかった。
 いつの間に、村の外を漂う空気はひんやり冷たくなり、畑仕事をしていても、暖かい陽射しの下で
いられる時間が急に短くなっているのが分かる。冬を迎える準備をそろそろしないと、などと彼に
話したら、何も考えていないように見えて、その辺に群生していた柊の枝をひと塊、手渡してきたのだ。
「柊かぁ、現代のクリスマスの飾り物でもよく見かけたけど…やっぱり野生のは渋くて味わいがあるわね」
「…はぁ? くりすま…??」
「クリスマス、よ。ちょうど今くらいの季節にね、私たちのとこでは賑やかにご馳走振舞って、祝い事を
するの」
「柊ってよ、見るからに刺々しい植物じゃねぇか? おめーの国で、こんなのが飾りに使われてたとは
知らなかったぜ」
「そう? 私は柊とか好きよ。確かに、棘は触ると痛いけど、可愛らしくて小さな赤い実を付けるでしょ。
花は白くて、金木犀に似た甘い香りを放つって、聞いたことあるわ。うちの神社の側に自生してる」
 実家の神社にも生えていた柊は、庭の木としてはまだ若く、小ぶりな成長途上の大きさだった。
観察していて発見したことと言えば、西洋と日本の柊の違いであり、日本のものは実が紫という点だ。
「あ…そういや、おまえが出かけてて、俺が家に来ちまった時か、部屋にいた草太の話を聞いたこと
があったな。なんでも、”柊の色が、姉ちゃんと犬の兄ちゃんの服の色みたいだ”って言ってたぜ」
「え…? どういうこと?」
「…おめーが以前着ていた、丈の短ぇ着物の色…緑と、俺の火鼠の衣…赤のことだろうよ。
分厚い図鑑開いて、柊の葉の色も緑で、実の色も赤だってこと言いたかったんじゃねーか」
「あ、そっか。面白いわね、物の例えが。そうだ、家でもいろんなことがあったなぁ」
「草太のやつ言ってたが、くりすますの日の朝までに…”さんた”って野郎が、律儀にぷれぜんと
っつー物を枕元に置いていくみてぇだな。恒例の行事だって、得意気に話してたの覚えてるぜ」
 珍妙な外国の優しい夢物語の件は、犬夜叉の好奇心がさぞ刺激されたのも想像に難くない。
やけに背伸びしたがる弟のこと、いつかその秘密に気づく日が来ても、嘘に付き合っていそうだ。
「へぇー。草太、犬夜叉にそんなこと言ってたんだぁ。ホント、サンタ役のじいちゃんは張りきって
いたわ。私もね、四年前まで貰ってたのよね。ううん、何もクリスマスに限ったことじゃなかった
かしら。十五の時の誕生日には河童の手の木乃伊でしょ、中学卒業祝いには龍の髭をプレゼントして
くれたけど。仮にも孫にあげる物なのに、私の好み全く考えてくれないんだもの。勘弁してよねって
感じよ」
 喋り出したら、最後まで止まらずに語っていて、先刻の笑い顔が不自然に引きつっていた。
どうやら、長らく仕舞っていた感情の蓋が何かの拍子で開いて、勢いよく零れてしまったらしい。
「……かごめ…国のこと、なんか思い出させちまって悪ぃな…」
「やだ、どうして犬夜叉が謝るのよー。現代での思い出も、戦国での暮らしでの思い出も、全て私の
宝物だから。ねぇ、私、時々 考えるのよ。どちらにも大好きな人たちがいてくれて、幸せだってこと」
「それ──せっかくだ、部屋に飾っとくか? ちっとは、寒い冬を越える道具にはなってくれんだろ」
「ええ。ありがと、犬夜叉」
 隠そうとも、ふいに滲む旦那の気遣いに救われていて、かごめは瞼を閉じると、ふぅと息を吐いた。
まずは家の入口に、簾のようにぐるりと巻き付け、残りは二人の寝室に置いておこうと話を決める。
今さらだが、自分が思うよりもずっと、犬夜叉が嫁想いなのだという事実に、胸が熱くなった。

 囲炉裏を囲み、相対して座って話をしているが、それだけで疲れが溶けていくようで、まだ
ここに長居したくなる。せわしない日常にあって、たまの彼の休日はありがたいものだ。
 暇を持て余す犬夜叉の面倒を見ながら、楽しそうに語らっていると、穏やかな光と共に、錫杖の
音が響いた。
「かごめ様」
「あら、弥勒さま。ちょうど休憩してたの、入って入って」
「おや、柊ですか。鬼を祓う魔除けの飾りとは、また趣があっていい」
「魔除けって、おまえなぁ。節分はまだ先の話だろうが。違ぇよ、かごめ曰く、冬の飾りだ」
 巷では、柊の用途は節分での厄払いが一般的に有名で、それ以外は馴染みがない。
鬼門とされる丑寅の方角に、鰯の頭と柊の枝を飾れば、退魔の役割を果たすという。
気が早すぎると苦笑を隠せないが、厄払いと間違えられたのはいっそ清々しい気がした。
「…それは失礼しました。かごめ様の国では、柊の葉を部屋に飾るのですか?」
「そうなのよ、冬の行事の象徴っていうのかな。もっとも、本物じゃなくて造花みたいなの」
 一息ついて眺めてみても、隙間の多い空間を彩る緑があることは、非常に癒しとなる。
よほど柊が気に入ったのを不思議に思った弥勒が、かごめの手元を覗き込み、口を開く。
「かごめ様、右手の平を見せて下さいますか」
「っ、おい! 人の女捕まえて、なんで得意気に掌覗き込んでんだよ」
「何が不満なんだ、犬夜叉」
「そりゃ分かんだろ。おめーだって、いけ好かねぇ野郎に自分の嫁の手相占ってやるとか
言われたら、同じ態度取るに違いねぇ」
「いけ好かないって、あんた…」
「まあ、そうでしょうな。私だったら、そう言われた時点で張本人のツラを殴ってますよ」
「相手が弥勒だから、くだらねぇ冗談も水に流して、あえて許してやってんだけどな」
 ふいに思いついた戯れを巡って、犬夜叉が振り回されているのが可笑しく、かごめは
もっと旦那を困らせたい気持ちが溢れてきた。意地っ張りの彼らしい、虚勢の張り方だ。
「いいわよ、私で良ければ。やってもらうのも初めてだもの、手相占いって」
「それでは喜んで、運勢を占おうといたしましょうか」
 しかし、じっと見つめられるのも案外 照れくさいもので、早く終わらないだろうかと焦れ
てしまう。人の輪を遠巻きに見ていたことはあったが、一対一で対峙するのは慣れない。
「ふむ……やはり、かごめ様のお手はめずらしい形をしておられる。占う甲斐があります」
「なになに? 弥勒さまの目にはどう映っているのかしら」
 詳しく聞けば、川の字の形をした三本の線の間に、交差した十字の小さな線があるという。
たいていの霊感の強い者にはその十字線があり、その長さに応じて、霊力の強さも変わって
くるのだといい、先祖の加護を受けているらしい。かごめの十字線は手首付近まで伸びている。
「へぇ…こういうの嘘臭いと思ってたけど、理屈立ててもらうと、それらしく聞こえるわ」
「まーた、調子のいいこと言ってらぁ」
 先ほどから、あくびを連発している犬夜叉だけは例外で、早くも集中を切らした様子だ。
かごめの長所を褒めるばかりで、短所の一つも言わぬ部分が、余計に信憑性に欠けると思われた
かもしれない。
「犬夜叉は聞く耳持たず、ですか。想像してはいましたが、寂しいものですな。手相占い、結構
当たると評判なのですよ、おなごたちの間では」
「占い、今はやってないでしょうね? 珊瑚ちゃんのいる前でやったら、忽ち機嫌損ねてしまうわよ」
「…なかなか手厳しい。ご心配には及びません。あの頃とは違って、今の私には珊瑚だけですから」
 上手いことを言って、ごまかしたように聞こえたが、実際は、場を弁えて法師として振舞っている
のだろう。
「けっ。インチキ占いだか知らねーが、好きにしやがれ」
 旦那のお墨付きを得て、弥勒の言われるがまま、ありがたそうな講釈を半分流し、聞いていた。
正直、占いの類を信じるつもりはなくて、診断テストのように、話のネタとして楽しむ部分が大き
かったけれども。
「最後にひとつ。この掌の奥に刻まれた、下向きの線をご覧下さい。何本か描かれていますね」
「え、小指側にある上下の線のこと?」
 左手の手相は生まれ持った運勢を表し、中でも、小指は恋愛にまつわる事象を占う部分だそうで、
その付近に位置する線を見れば、男女の性に関するあれこれが多少分かるという。
「近い将来、子宝に恵まれるという証です。ほら、左手の親指の付け根、この部分も膨らんでますし」
「……」
 無論、単純な気休めでも、それは励ましの助言であって、特に深い意味などはないのだと思う。
込み入った話を打ち明けた訳でもないのに、かごめの悩みを見透かす弥勒の眼差しに、驚く。
たとえ、身体の触れ合いを日々重ねても、どこか心と心が素直になれず、肝心のところで戸惑う
やり取りに諦めを抱き、消化不良を繰り返してばかりいたのだ。
 夫婦として歩き始めた数ヶ月はあっという間に過ぎていき、平穏な毎日に感謝しては、溢れる
想いをきちんと形にしてきたはずだった。あと一歩の勇気と、相手の心を信じ抜く強さがあれば。
「大事なのは、互いの気持ちを尊重することです。かごめ様のお側には、犬夜叉がいる。
変に焦ったり、気負ったりせずとも、然るべき時というものは来るのですから、今を楽しんで
下さい」
「そうね。心の赴くままに向き合ってみる。弥勒さま、親切にどうもありがとう」
 さすが、先輩としての重みが感じられて、スッと入って来るのは、経験に裏打ちされているゆえ。
旅人の進む道程の如く、気の迷いが心地良く霧散していき、綺麗な青空が映し出されてゆく。
 礼を言うと、かごめは仕事の続きをするため、楓の家に戻って、巫女の務めをこなしていった。
「では邪魔したな、犬夜叉。明日、退治の依頼が入ったゆえ、朝早くから隣村へ向かうが、宜しく
頼むぞ」
「…おー。そっちこそ寝坊すんじゃねーぞ、弥勒。じゃあな」
 無愛想に返事をして、言伝が済んだ者の背を見送ると、力が抜けたように、犬夜叉は寝転ぶ。
以前、双子たちの世話に夢中で、弥勒が約束の刻限を大幅に過ぎて来た件を言ったのは、せめて
もの意地というか、かごめとの関係で、余計な世話を焼かれたことへの八つ当たりでもある。
 その夜、夕餉を共にした後。普段ならば、何らかの触れ合いがどちらともなく始まって、膝枕に
身を沈めた犬夜叉が、かごめに寄り添って口づけを交わすこともある。だが、不器用ながら、上手
くいっていた仕草まで、どこかギクシャクしていることに、互いは頬を赤らめるしかなかった。
 何も意識するなというのが無理な話で、相手に委ねるだけでは、”好き”を伝えるのも難しい。
二人揃って夜更かしの影響が出てしまい、翌朝、かごめは慌てて仕度を整え、犬夜叉を送り出した
のだった。

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