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企画

降り積もる愛【境界のRINNE】

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 東京ではなかなか見慣れない、白く積もる雪が、三界高校のグラウンドをただ染めていた。
 3学期も今日から始まり、短い冬休みを惜しむようにして、生徒たちが次々と学校へ赴いて
いたが──その中に、りんねの姿はどんなに待てども見出せない。
 依頼人からの仕事のため、りんね自身が授業をサボることはあったとしても、入学当初以来、
頻繁に欠席するのも久しかったので、彼の脈絡もない欠席の理由が桜は気がかりだった。
「真宮さん。この後、よかったら一緒に…」
 正午を過ぎ、始業式も終えた頃。クラスメイトで、祓い屋の少年・翼が誘いを仕掛けてきた。
死神として日常を送るりんねを”恋敵”と目して対抗心を燃やし、翼は何かと意地を張っている。
「ごめんね、翼くん。私心配だし、六道くんのところに今から寄って行くの」
 クラブ棟に足繁く通うのはもはや桜の日課となっており、どんな些細なきっかけであれ、彼の
様子を伺うのを欠かすことはなかった。
「なんで、あんなやつのところにわざわざ行くんだい? 君は優しすぎるよ」
 モノトーンの黒い衣装に身を包み、翼は机に手を置いて、桜にその理由を大胆にも尋ねる。
「そうよ。行くだけ無駄だわ、六道の休みは大した理由じゃないもの。今日に限ってはね」
 被さって聞こえて来たのは、透明感がありながらも、低めで凛々しい、筋の通った声。
「…れんげ」
 名を呼ばれた少女は腕組みして、桜と翼の横に立つと、そう明言した。実はだまし神である。
 廃墟寸前のクラブ棟に住んでいるれんげは、りんねの隣室になりゆきで転がり込み、時々
騒動を起こしながらも今に至る。
 自らの世話は契約黒猫のタマに任せていて、給料未払いの堕魔死神カンパニーからの小遣いを
とうに諦め、放課後のバイト代で食費を賄っているのが現状だ。
「隣で六文と朝っぱらから、何やらうるさく騒いでたわ。間違っても、風邪じゃないと思うけど」
「だとしても、気になるよ」
 学校が休みの間は、用事でクラブ棟へ赴くことはあっても、桜はどこか落ち着かずに、変な心地
がしていた。3学期が始まり、賑わいを取り戻した学校に、りんねの姿が見当たらないことはなん
とも言えぬ寂しさを感じさせる。
 ただのクラスメイトといえば、それまで。桜とりんねの間には、特別な感情がある訳でもなけれ
ば、甘い雰囲気になるような間柄でもない。けれど、いつの間にか死神の仕事を手伝い、桜が協力
しているうち、りんねの想いに触れることがその都度あったからか──桜の方から、もっと彼と関
わりたいとの気持ちが無意識に募ってきたのだろう。
「待った、真宮さん。俺も行く!」
「ったく…しょーがないわね」
「れんげ。なぜ、おまえも付いて来る」
「別に? 私はただ、始業式の日にズル休みするやつの顔を拝みたいだけよ」
 遠ざかる桜の背中を追いかけようとして、翼が素早く教室を飛び出し、れんげも続く。
 真っ白に息を弾ませ、グラウンドに出た桜は、近くに雪だるまを見つけて微笑んだ。

「りんね様〰。今朝の夢見が悪かったのは分かりますけど、そんなんで学校を休むなんて、
大人げないと思いませんか」
 元気なく、四畳間に突っ伏したままの主を見かね、忠猫よろしく、六文が突っ込んで言う。
 苦言を呈されても、りんねのだらしない様子は朝から同じで、彼は一歩もまだ外には出て
いない。
「…そう言うな、六文。外は雪で、見るからに寒そうだ。これはきっと“学校に来るな”との
お告げに違いない」
 黄泉の羽織とジャージという薄着のまま、りんねは肩を小刻みに震わせて言う。
住居のクラブ棟はかなりの年季が入った建造物で、隙間風が絶え間なく入り込むほどに、
その構造もたかが知れていた。茹だる夏に、凍える冬。一年中ここに住むのには適さない
だろう。
「六道くん、大丈夫?」
「なんだ、意外といつも通りじゃないか」
「ほら。やっぱり、そうだ」
 軋むドアが急に開き、外から三人の同級生が顔を出して、遠くから何やら話し合っている。
鞄を片手に持ち、寒そうにしてコートを羽織った桜が視界に映り、慌ててりんねは姿勢を正す。
「桜さまに十文字、それにれんげまで…」
「おまえたち、俺を訪ねて来たのか」
 寒空の下、立ち話も辛いだろう。りんねは部屋に桜たちを入れ、座ってもらうよう促した。
特にもてなしもできないのは仕方ないが、貧乏ゆえに言わずとも皆は分かりきっていた。
「はぁ? 悪夢のせいで休んだだとぉ!?」
「そっか…沫悟くんの夢を…」
「あんた、学校ナメてんの?」
 事の顛末を一同に語れば、桜を除いては皆、理解不能と言わんばかり、渋い顔をしている。
このまま、無意味に学校をサボったと誤解されても、居心地が良くない。理由はあるのだから。
「彼はな…雪だるま状に勢いよく転がってきて、このクラブ棟の階段の前を通せんぼしてた
んだ、さもにこやかな微笑みで。起きて背筋が凍りついたぞ、朝から沫悟くんの夢とは…」
 暑気払いとして、真夏に聞く怪談ならばいいが、身体も縮こまる冬に涼しくなるのではしゃれ
にならない。万に一つ、正夢になりはしないかと、りんねの妙な妄想は飛躍を広げていたのだ。
「大げさね、六道。実体のない幻に怯むようじゃ、死神失格よ」
「ふっ、だまし神のおまえが、堂々と俺に言える立場か」
 棘のあるれんげの一言に、りんねは堪らず、口をつい挟んで応戦してしまう。
 いつだか、死神一高で実践されていると噂の、夢魔捕縛実習に苦しんだ記憶が蘇り、彼の脳裏
を掠めた。

 けれど、あばら家同然の秘密基地でも、人が集まるだけで室温が上がるのはありがたい。
クラスメイトから、今日あった出来事や連絡事項などを聞いたりんねが、一息入れたと同時に──
「りんねくん! 新学期早々、欠席したって本当かい!?」
「…沫悟くん…」
 ドアの向こうから、植物のアイビーを彷彿とさせるような、濃い緑色の髪をした少年が、血相を
変えてこちらに駆け寄ってきたではないか。彼こそが──りんねの夢に颯爽と登場し、真冬の雪に
浮かれて、善意なイヤガラセを嬉々として披露していた沫悟である。
 今は死神一高に通う沫悟だが、りんねとは死神小学校からの付き合い。訳あっての仲違い騒動
から一変、途方もない友情愛に目覚めた沫悟は、事あるごとにりんねの元を訪れ、猛アタックを
繰り返していたのが、つい最近のことだ。
「お、噂をすれば」
「よく懲りないわね、六道も嫌がってるのに」
「まぁ…沫悟くんに悪気がある訳じゃないし」
「だから余計タチが悪いんですよ、桜さま」
 頷く桜に、六文をはじめとして、他の二人も苦笑いを浮かべて、その場は和やかな空気に包まれ
る。お人好しの一面もありつつ、天然でクールな部分も併せ持つ人間の女子に、幾度 死神少年が
翻弄されては、時に魅了されているのかが垣間見える瞬間でもあった。
「真宮 桜さんと、その他か。僕以外にも、りんねくんのことを心配してた人がいるんだね」
 温度差のある微妙な周囲の視線をものともせず、沫悟は心から憐みを表して微笑む。
さながら、彼は舞台に上がった俳優のようで、”壇上には自分とりんねの二人しかいないのだ”など
と都合よく錯覚しているのではと、他人に穿って見られたとしても仕方ないだろう。
「帰ってくれ。今日だけは、君と会いたくないんだ」
「え゛…りんねくん…?」
「すまんが、昨夜はずっと造花の内職をしていて、一睡もできていない。とにかく、今はただ
泥のように、ぐっすり眠りたい。沫悟くん、君に構う心の余裕はないんだ」
「……」
 顎に手を添え、思案顔をしたまま、かつての級友・六道りんねの赤い眼を凝視している。
継ぐべき言葉が出なかったか、それとも別のことに思いを巡らせているのか、誰にも沫悟の心の内
は分からない。
「珍しいな。あの六道が断るなんて」
「でも…なんか変だよね、六道くん」
「どこが徹夜明けだっていうのよ、あいつの夢まで見たくせに」
 翼とれんげを筆頭に、輪の外では遠慮のない内緒話がされており、他所は野次馬根性丸出しで
あるのが透けてみえる。もっとも、聞く耳を疑うような内容の嘘をりんね自身 平気で付いていた
のも、皆がつい反応したくなる誘因だったのであろう。
「ああ。分かったよ、潔く僕は帰るさ。お大事にね、りんねくん」
 わずかにショックを覗かせつつ、どこか余裕をみせて友の元を去るのが、沫悟のスタンス。
白地のブレザーは光り輝く新品そのもので、りんねの着古したジャージとはまるで別物だった。
「案外、素直に帰ってったわね…」
「どうなってんだ?」
 釈然としないまま、ふとした疑問だけが一同の間に残されて、平静が再び訪れる。
ようやく、沫悟から解放されたにもかかわらず、りんねの顔色は澱んで、依然冴えないままだ。

 百均で揃う安価な紙コップに注がれた湯を、各々が飲み終わろうかという時だった。
 桜がふと立ち上がり、高く積まれた段ボールに入ったバラの造花を覗き込もうとして、足元の
不審な包みに気づく。
「あら、こんなとこに小箱が」
 桜がひょいと拾い上げたそれは、金銀のリボンが囲むように巻かれており、正方形をしていた。
試しに小箱を開けてみると、プチプチの包装材に包まれた球体と、他にカードが封入されている。
 星を思わせる銀色のラメが散りばめられた水晶玉の中には、幼い赤髪の少年と、眼鏡をかけた
男の子が共に肩を組み、とびきりの笑顔で収まっている人形が、見事にデザインされていたのだ。
 偶然にも──今日は、三界町で初雪が観測されて、5センチ降雪したと朝のニュースで報道も
あった。沫悟がその日に合わせてきた訳ではないだろうが、あまりにできすぎたシナリオに、
一同は唖然となる。りんねに桁外れの友情を求む沫悟の想いが、熱を帯びてこちらにも伝わって
来るようだ。
『スノードームを専門業者に特注して、君へのプレゼントを作ってもらったよ。再会を祝して、
僕とりんねくんが共に過ごした、死神小のミニチュアも閉じ込めたんだ。これを眺めて、僕の
ことをいつも思い出してくれたら嬉しいよ。お代は要らないから、遠慮なくオブジェとして
部屋に飾ってね。また遊びに来るから、その日まで楽しみに待ってて欲しいな。 沫悟』
 桜が読み上げたメッセージを、張本人の沫悟の声で脳内再生すると、なかなかに厳しいものが
ある。とはいえ、親しい人にあげる贈り物ならば、肌寒い冬に相応しい品なのは違いないので、
裕福なお坊っちゃんが選ぶモノのセンスの良さは確かだろう。
「ほぅ…やるな、沫悟のやつ」
「なんか無駄に金掛けてきたっていうか…」
 父親が祓い屋稼業の身である翼は、似た懐具合ゆえか感嘆していたが、普通の庶民感覚から
してみれば、桜のようにどこかズレを感じるのがごく当たり前だと思われる。
 そんな違和感を差し引けば、スノードームの高い完成度は素人目にも明らかで、腕利きを探し
出して、自分の要望を忠実に再現してもらえるよう、沫悟なりに準備を重ねてきたのかもしれない。
 さて、勝手なる置き土産の対処に苦慮しているのは六文くらいなもので、皆の世間話のネタに
される始末だ。肝心のりんねに至っては、その場の空気と化しているかの如く、ひたすらに固まっ
て無言を貫いている。
「ねぇ、息してる? 六道くん」
「相当ダメージを食らったようね」
「そりゃ無理もないですよ」

 桜たちが帰宅した後、空腹感を覚えたりんねは、夕食代わりのカップ麺を六文と分け合った。
迷惑だからと捨てるのはもちろん、何処に転売するのも憚られて、とりあえず一晩放置して考え
るか、と大仰な贈り物の存在を一旦 忘れることにした。これは単なる沫悟の押し付けであって、
自分が好きで物を受け取った訳ではないのだから、取り乱すことなく、落ち着いていればいいの
だと。
 ところが翌日、りんねの部屋を訪れ、留守をいいことに、金目の物を目敏く盗んでいった男が
いた。そう、六道鯖人である。
 鯖人があの世のリサイクルショップに売り出そうとしていたところ──社長付秘書・美人の目に
留まり、雪の降る情景がロマンチックだと、沫悟発案のスノードームを机上に飾ったのだという。
 それからしばらくして、堕魔死神カンパニーでスノードームが商品化されたが、値が高価な割に
“特に何も仕掛けがなくて寂しい”との不評を受け、二度と世に出ることはなかった。

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